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644.ご紹介します(24):「人は、なぜ他人を許せないのか?」

20200601書籍      20200601書籍2

  今回ご紹介しますのは、中野信子さんという方が書かれた「人は、なぜ他人を許せないのか?」というタイトルの本です。
 帯には、「すべての人の心に潜む「正義中毒」という快楽を最新の脳科学が解き明かす!」とあり、さらに「自分は絶対正しい」「他人の言動が許せない」という二つのフレーズも記されています。

 この帯の言葉だけで、この本を読んでみたいと思いました。
 ちょうどいま、新型コロナウイルス感染拡大に対応して外出自粛の呼びかけが行われています。その中で、他の人の行動を批判する過剰な行動やネットへの書き込み、医療従事者への差別の問題が表面化しています。また、木村花さんという女性のプロレスラーが亡くなりましたが、ネット上で彼女で対する執拗な非難が行われたことがその背景にある、という報道がなされていました。

 私は、以前から私たちは過剰に正義を求めすぎているのではないか、と感じていました。特に自分以外の人に対して、正しくあることを求め、少しでもそれと違うことを目にし、耳にすると居丈高にその人を非難してしまって、寛容性が狭まってきたなあ、と感じることが多くありました。

 著者の中野さんは、そのような傾向、行動は人間にとって当たり前のことなのだ、「そもそも人間の脳は誰かと対立することが自然であり、対立するようにできています。」と言います。私たちの脳そのものが、そのように外に向かって攻撃的になっているのだといわれるのです。哺乳類のうちの多くのものは個体の弱さを克服するために集団を形成するのですが、この集団同士は対立する関係に陥るのだそうです。そうなると、「自己の所属している集団が集団であり続けることこそが正義」だということになります。
 この生き延びるために形成された集団は、その置かれた環境によって性質がすこしずつ異なってくるのだそうです。日本の集団が置かれた環境というのは、狭い島国で、地震や火山の噴火、台風などの厳しい自然環境の中で生き延びなければならなかったという特徴があり、そのような環境では、まとまって行動できる集団の方が生き延びる可能性が高かったのだ、と中野さんは言います。様々な意見が出され、中には突拍子もない者がいてもそのような存在を包含しながら方向を決めるというような余裕もない、そんな環境だったと言えるのでしょうか。そうして生き延びてきた私たちの遺伝子には、集団に依拠して生きるという知恵が組み込まれてきた、ともいえるようです。
 そのような集団の中では、突出した個性を持ち、自分の価値観を前面に出していく構成員は、集団のまとまりを壊す存在だとして排除されることになると中野さんは言います。

 このような見方で、現在起こっている現象を見てみると、「そんなことをするなんて許せない」としてバッシングに走り、中野さんの言葉をお借りすれば「間違ったことが許せない」「間違っている人を、徹底的に罰しなければならない」「私は正しく、相手が間違っているのだから、どんなひどい言葉をぶつけても構わない」ということになります。しかも、そのように「他人に「正義の制裁」を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物資であるドーパミンが放出され」るのだそうです。
 この私たちの行動傾向は、ネットでの「書き込み」が匿名で可能だということで先鋭化し、さらに新型コロナウイルス感染などのストレスのなかで増幅され、「正義の履行」が止まらなくなったのが現在の姿なのだということが分かります。

 お釈迦さまは、私たちが逃れることができない八つの苦の一つとして「怨憎会苦」をあげられました。怨み、憎む相手と出会わなければならない苦、です。お釈迦さまは、私たちの外にそのような相手がいるのだ、と言っておられるのではなく、私たち自身がそのような対象を作り出してしまうのだ、逃れることのできない煩悩を抱えている私たちがそうしているのだ、ということを教えていただいています。そして、現在の脳科学は、これは私たちが生き延びるために身につけた資質なのだ、ということを示している、ということになります。

 以前ご紹介しました、「二人が睦まじくいるためには」という本のことを想い出しています。吉野弘さんは、「祝婚歌」という詩の中で次のように言われていました。
 「互いに非難することがあっても 非難できる資格が自分にあったかどうか あとで疑わしくなるほうがいい
  正しいことを言うときは 少しひかえめにするほうがいい
  正しいことを言うときは 相手を傷つけやすいものだと 気付いているほうがいい」

 私たちは、脳の働きでもって他者に対して攻撃的にならざるを得ないにしても、そのような存在であることを認識し、少しでもそれを抑制できるように努めることはできると、自分に言い聞かせることはできると思います。

(図は、本のカバーです)

 今回、たまたま時間があって、ぶらりと書店に入ってこの本に出合いました。このようなことは最近少なくなったような気がします。まず、ぶらりと入るような書店が近くになくなっています。そして郊外にできた大型の書店は、コミックや参考書、趣味の本などの置き場が広くなって、落ち着いて本を眺め、立ち読みするという気分になりにくいです。
 そんなことから、書評で気になった本や誰かから勧められた本を、ネットで注文するというパターンが多くなってしまいました。ぶらりと書店に入って、豊かな(?)時間を過ごすという習慣も大事だな、と改めて思います。

 もう一つ気づいたのですが、前回の「トリセツ」と今回の本、どちらも女性の脳科学者が書かれた本です。どちらの本も、私たちの行動が私たちの脳(や遺伝子)から重要な支配を受けているということを、分かりやすく説明する内容になっているという共通点があります。
 
(このブログは毎週2回、月曜日と金曜日に新しい記事を載せる予定ですので、また覗いてみてください)


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