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531.最近の話題(30):フォーラム「古川薫さんが遺したもの」

20190426古川氏  20190426古川氏2

 4月20日に下関市の「生涯学習プラザ」で開催された山口新聞社主催の「古川薫さんが遺したもの」というフォーラムを聞くことができました。

 古川薫さんは下関出身で、教員を経て現山口新聞社に入社、同社の編集局長を最後に作家活動に入られた方です。1990年に下関出身のオペラ歌手藤原義江の伝記小説『漂泊者のアリア』で直木賞を受賞されたのですが、25年間に9回候補になりながら賞を逃された後の受賞でした。
 古川さんは、昨年5月5日に92歳で亡くなられました。今回のフォーラムは、歿後1年を前にして古川さんを偲んで開催された催しということになります。

 第一部は、文芸春秋社で編集者として長く古川さんを担当されていた岡崎正隆氏の講演でした。各回の直木賞選考の舞台裏なども含めて、古川さんとの思い出をお聞きしました。
 このフォーラムの会場に行く前に、古川さんが名誉館長をされていた「下関市近代先人顕彰館 田中絹代ぶんか館」を訪ねました。ちょうど「春季所蔵品展「古川薫」」が行われていて、古川さんの直木賞受賞までの10作品などが展示されていたのですが、その他に、編集者だった岡崎氏が古川さんに送られた書簡も展示されていました。その書簡の中に、岡崎氏が古川さんの作品について手直しを提案されている内容のものもありました。古川さんもその指摘に同意して手直しをされたことが紹介されていましたが、編集者と作家の間にこのような関係もあったのだということを初めて知った思いでした。それはまた、古川さんが岡崎氏に寄せておられた信頼の厚さを示すものでもあったのでしょう。

 第二部はパネルディスカッションで、パネリストは講演を行った岡崎氏、古川さんの奥さんで歌人の森重香代子氏、下関市の劇団海峡座主宰の武部忠夫氏、田中絹代ぶんか館の主任学芸員の吉田房代氏で山口新聞社の編集顧問の佐々木正一氏がコーディネーターを勤めておられました。
 ディスカッションの中では、古川さんが下関に住むことにこだわられたことが取り上げられていました。東京に出てこないか、という誘いは随分あったそうですし、文壇の「中央」の東京に居を構えることの有利さもあったのでしょうが、古川さんは下関を離れられませんでした。このことについて、「地方のハンディはあったけど、地元の歴史風土を敏感にすくい上げて作品としていた。下関人の誇り」、「幕末維新の中で光が当たらなかった人びとを取り上げるには、資料も含め地元にいることが不可欠でそれが古川さんの力になった」というコメントがあり、これはよく理解できる思いでした。

 今回のフォーラムの会場で、奥さんの森重香代子氏の短歌15首と古川さんの俳句1句を記した資料が配られていました。古川さんが創作に向かわれていた姿、直木賞などに積もる思いなどを奥さんの眼で詠まれた歌、そのような奥さんに対する古川さんの思いが感じられる歌や句で、いずれも印象深いものでした。
 奥さんの歌です。
  午前二時シャワー浴びつつ喚きをり小説書きの囚はれ男
  ふと人に変化(へんげ)し鬼の出でしあと鬼の栖(すみか)をわが叩(はたき)をり
  直木賞八度逸せし心境を問はれゐる夫フラッシュあびて
  てのひらに結びし春の雪だるまパン皿にのせ夫がもち来る(奥さんが入院されていた時の歌だと思います)
  七日経し雨の夜を来てわが肩に止まりし羽虫夫にあらぬか
 古川さんの句です
  廃園に佇む妻の袖に蝶

 実は、古川さんご夫妻については思い出があります。
 関西にいた頃に、卒業した高校の同窓会関西支部というのがあり、その役員をやっていたことがありました。毎年開催する総会の中で特別講演(公演)会を計画し、同窓生や下関に関連のある方に来ていただいて講演や公演をお願いしていました。
 役員の中に古川さんに講演をお願いできる人がいて、古川さんには私が役員をやっていた15年の間に2回講演をお願いしました。同じ方に2回お願いするというのは古川さん以外にはありませんでしたが、快くお引き受けいただきました。
 最初の演題は「歴史から見た山口県と関西」、二回目は「田中絹代の光と影」で、いずれも下関に関わる興味深いお話しを、丁寧にお話しいただいたことを覚えております。
 今回のフォーラムで驚きましたのは、奥さんが「鬼」とまで表現された古川さんの作家としての姿と、同窓会で講演しておられる姿のギャップです。作家として創作に当たっておられた古川さんは、奥さんの眼には、シャワーを浴びながら喚く「小説書きの囚われ男」だったのでしょう。
 また、同窓会の講演会には奥さんもご一緒においでいただいたこともあって、このフォーラムは大変印象に残るものになりました。

(写真左は20日のパネルディスカッションの様子、右は古川さんご夫妻です)

 右の写真は1997年の同窓会総会で講演していただいた時の写真で、同窓会の会報のコピーです。

(このブログは毎週2回、月曜日と金曜日に新しい記事を載せる予定ですので、また覗いてみてください)
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