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504.ご紹介します(18):「動的平衡」


 書籍を「ご紹介します」は、昨年1月の「石炭都市宇部の起源」が最後でしたから1年ぶりということになります。

 今回は、「新版 動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか」小学館新書で刊行された本で、著者は、福岡伸一さんです。
 福岡さんは分子生物学という分野で「生命とは何か」ということについて研究されている人で、『週間文春』に「パンタレイ・パングロス」という面白い連載コラムを持っておられ、また、画家のフェルメールの熱心なファンということでも知られています。

 著書の帯に「生命は変わらないために変わり続けている。」という言葉がありますが、生命の本質は「動的な平衡」(変わり続けているがその中で平衡状態を保とうとしている)にあるとされています。
 私たちの体は37兆個(60兆個とする説もあるそうです)もの細胞から成り立っているということです。そのスタートはたった1個の受精卵、それが細胞分裂を繰り返して37兆という膨大な数の細胞になるのですが、しかも、その37兆個の細胞の多くは常に入れ替わっているのだそうです。心臓や神経の細胞のように入れ替わらない細胞もあるのですが、ほとんどの細胞が破壊され新に生まれるという入れ替わりを繰り返していて、毎日1兆個もの細胞が入れ替わっているというびっくりするような情報(他の情報ですが)もありました。

 細胞よりもさらに小さな分子レベルで見ると、「生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新されているのである。」(同書)従って、私たちの姿は「通り過ぎつつある分子が、一時的に形作っているにすぎない」その流れの中で、かろうじて一定の状態を保っているのだといわれます。

 この分解と再生を繰り返すことには大きな意味があるとされています。
 それは、分解と再生を繰り返すことが環境の変化に適応することを可能にし、自身に生じた傷を補修することを可能にするものだという点です。同じ細胞、同じ分子が維持されている個体では、環境に変化が生じた場合これに適応できないものは絶滅する以外に道はないからです。
 さらに、体の構成要素には常に衰え、壊れ、散らばる(福岡氏はこれを「エントロピーの増大の法則」と表現されています)という現象が生じるのですが、生命はそれに「先回りして、自らを壊し、そして再構築する」ことで対応してきた、それが「動的平衡」の内容だとされます。
 「動的平衡(破壊と再構築)」は、限りなく変化し続ける自身と環境に適応するために、生命が38憶年をかけて組み上げた「時間との共存方法」なのだとされます。

 しかし、このように「エントロピーの増大」と追いかけっこしていても、分子レベルの損傷が蓄積されてきて、ついには先回りした再構築が追いつかなくなります。これが個体の死だということになります。あるいは「老化」もその初期段階の姿かもしれません。

 このように見てきますと、以前に学びました「三法印」(お釈迦さまが説かれた教えの3つの大切な要素)の一つの、「諸行無常印」のことを思い浮かべます。
 お釈迦さまは「あらゆるものは原因(因)と条件(縁)によりその結果(果)として生じたものであり、それゆえに一切のものは生滅変化、流転してとどまることがない」とされます。私たちは時々刻々消滅変化してとどまることができないと、まさに「動的平衡」の姿を述べておられます。
 「諸行無常」というと、私たちは、私たちの外のものが時々刻々消滅変化する姿と思い込んでしまうところがあります。しかし、お釈迦さまが言われたことは私たち自身も含めてあらゆるものが消滅変化を繰り返してとどまることがない、ということでした。福岡氏も「動的平衡」という言葉で、私たち自身も含めたあらゆる生命がそれから逃れることができない、と言っておられます。

 このような消滅変化、流転の中にあっても、現在の姿、健康、若さ、命がいつまでもあって欲しいと望み、執着し苦しむのが私たちの姿だということになります。あるいは、福岡氏の言われる「エントロピーの増大」を遅らせる、避けることはできないか、と望むのが私たちの姿です。
 「私たちは時として、(中略)時計の針を逆回転させたい欲求にかられる。額や頬に刻まれたシワを伸ばしたいと願い、抜けてしまった頭髪を植え込みたいと願うのである」(同書)しかし、その対処方法は、一つの現象に対してそれを遅らせる程度の効果しか持ちえません。たとえばある合成薬物が若さを保つ効果を表したとしても、身体はそれを「揺れ」ととらえて、その揺れを戻して作用を無効にするように働くのだそうです。動的平衡とは、そのような対応も含むものなのだということです。

 このように、生命現象からみても私たちは「動的平衡」(消滅変化)という大きな流れの中にいること、そしてそのことによってくる「エントロピーの増大」(老病死)を避けることができない存在であるということを認識することが大切なのだと改めて実感しました。

 もう一つ印象に残ったことを記しておきます。福岡氏は人間はチクワのようなものだと言われます。
 私たちの口から、胃、腸、肛門に至る部分はいわば「体外」とみなす方が正しいのだそうです。その部分は「チクワの穴」であって、口で食べた食物を胃に取り込んでも、それはまだ体外。食物が消化管の壁を通過できるまでに分子レベルで細かく分解され吸収されて初めて「体内」に取り込まれた、となるのだそうです。
 その結果、「コラーゲンが豊富」をうたい文句にしている食品があったとしても、そのコラーゲンは消化管の中で消化酵素によってバラバラのアミノ酸に分解されてから吸収されることになります。その吸収されたアミノ酸が体内でコラーゲンに再合成される保証は全くないのだそうです。
 ついでに、コラーゲン配合の化粧品というも耳にしますが、コラーゲンが皮膚から吸収されることはあり得ないのだそうです。

 福岡氏は、「コラーゲン豊富食品」のような「健康食品」がブームになるのは、「身体の調子が悪いのは何か重要な栄養素が不足しているせいだ」という不足・欠乏に対する脅迫観念があるようだ、とされています。
 あるいは、「動的平衡」が「エントロピーの増大」により少しずつ変化している現状に直面し、時間の流れをストップをかけたいという私たちの願望が「コラーゲン豊富」食品に込められているとも言えるのではないかと思います。

(写真は、本のコピーです)

(このブログは毎週2回、月曜日と金曜日に新しい記事を載せる予定ですので、また覗いてみてください)
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